ファームスタジアムDJ浜崎剛 マイクに込める願いと決意
「ワクワク感をお届けするために」

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 鋭い日差しが容赦なく照り付ける杉本商事バファローズスタジアム舞洲のグラウンド。ウエスタン・リーグ公式戦のイニング間に、「Y.M.C.A.」の音楽と共に夏の太陽に負けないエネルギッシュな声が響く。「皆さん、もっともっと弾けましょう!さぁ、サビです!踊りましょう!!」。スタンドのファンが全身でリズムを刻みながら勢いよく両腕を動かし、一斉にアピールする。「そこの赤い帽子のあなた!むちゃくちゃ良いダンスでした!サインボールはあなたにプレゼントします!」。選ばれた少年は飛び跳ねて喜び、スタンドはさわやかな拍手で包まれた。
バファローズのファーム名物イベント「YMCAダンスコンテスト」でマイクを握っているのは、浜崎剛。ファームスタジアムDJとして今年も熱い夏を過ごしている。

写真:「YMCAダンスコンテスト」でマイクを握る浜崎

◆夏休みといえば野球観戦

 浜崎は大阪府生まれ兵庫県育ち。幼い頃の夏休みの思い出といえばもっぱら野球観戦だった。祖父の家に遊びに行くとテレビはいつも野球中継がついていて、時には一緒に球場に足を運んで観戦を楽しんだ。スタンドに足を踏み入れた瞬間を鮮明に覚えている。「視界がパッと開けて、グラウンドが目に飛び込んできて。思わず『うわー!』と声が出るような興奮がありました」。幼いながらに心を奪われた。

 中学で野球をし、高校、大学では放送部に所属。トーク力とアナウンス技術を磨いた。新卒で銀行に就職したものの「自分の言葉と声で誰かの心を明るくする仕事がしたい」と、思い切って退職。ラジオパーソナリティになるための養成所に通い、コミュニティラジオでDJを務めるなど経験を積んだ。

 2018年にファームスタジアムDJに就任して以降、試合運営のアナウンスやスタメン発表、イニング間のMCなどの仕事をこなしている。今年4月からは、ラジオ大阪で放送中の「チキチキジョニーのいただきました!3時間!」でレギュラーを務めるなど、活躍の幅を広げている。

写真:開門ウェルカムで選手にインタビューする浜崎

◆時には関西弁でアナウンス

 スタジアムDJとして心掛けているのは「ファンに寄り添うこと」。時には関西弁のイントネーションで話しかけるようにアナウンスする。「今日はむっちゃ暑いんで、皆さんしっかり水分補給しましょうね!」。親しみやすい気遣いの言葉にファンも自然と耳を傾ける。

 選手がファンを出迎える「開門ウェルカム」や試合後のヒーローインタビューでは本領を発揮する。インタビュアーとして緩急をつけながら選手の話を広げ、時にはツッコミも入れて笑いを誘う。「スタンドとグラウンドって壁があるように感じがちですが、実は選手も僕たちと似ている部分がたくさんあります。ハイチュウが好きだったりピザポテトが好きだったり。休みの日にはスタバに行ったり。そういう親近感ある一面や選手の色をうまく引き出せたらなと思っています」

写真:ヒーローインタビューをする浜崎

◆壁を乗り越えてわかった自分の「色」

 ファンからも好評の浜崎のMCとアナウンスは、自身が壁を乗り越えてきた経験に裏付けられている。「スタジアムDJになったばかりの頃、前任のスタジアムDJと比べてここが良くないとか、違うとか、そういったお声を見たり聞いたりすることが多くて。落ち込んだしすごく悩みました」

 その時、先輩アナウンサーからはこんな声をかけられた。「浜ちゃん(浜崎)は浜ちゃん。無理せずに浜ちゃんのキャラでやったらいいよ」。その先輩をはじめ、周囲の意見を積極的に聞き、納得したことはどんどん取り入れるように心掛けた。ファンや選手と前向きに接する中で徐々に自分の色を自覚していった。

 「僕は周囲をぐいぐい引っ張るタイプじゃないし特別キャラが濃いわけでもない。でも、その分みんなが居心地良く笑顔になれる空気感を作ったり、主役の選手をうまく引き立たせたりできるんじゃないかと思っています。僕に色があるとしたら『和』。僕らスタッフもファンもチームも、みんなが一緒になって、楽しいファームになっていくのが理想です」

 スタジアムDJとしての盛り上げ方に正解はない。人前でマイクを握る楽しさと難しさ、どちらも知っているからこそ今の浜崎の姿がある。

写真:アナウンス室で笑顔を見せる浜崎

◆球場には全てが詰まっている

 5月、くら寿司スタジアム堺で開催されたウエスタン・リーグ公式戦の試合終了後、グラウンドに立つ浜崎の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。「パパ―!!」。3歳になる我が子だった。顔を紅潮させながら母のひざの上で無邪気に手を振る姿が、幼い頃に祖父と共に心を躍らせた自身の姿と重なった。

 浜崎は言う。「球場には、憧れも楽しみも僕がやりたかったことも全てがぎゅっと詰まっています。来てくれた人に、幼い頃の僕が感じていたようなワクワク感を届けたい」

 その日、スタンドで笑顔を弾けさせる我が子を見て、浜崎はふと思った。「この子も今日のことを、覚えていてくれるだろうか」。グラウンドを背にする浜崎の姿とともに刻まれたであろう我が子の記憶。それを確認するのはもう少し先のことである。(西田光)

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