「この一軍での経験を生かして、もっと成長したい」。昨年のドラフト2巡目で入団した内藤鵬選手。オープン戦で8試合に出場し、高卒新人選手とは思えぬスイングを披露し「右の大砲候補」として周囲からの期待を集めた。現在はファームで自身の弱点と長所を見つめながら着実に進歩する日々を送っている。成長著しい18歳のスラッガーに、これまでの心境と自身を突き動かす原動力について話を聞いた。
◆中国の伝説の鳥
内藤選手は名古屋市出身。180センチ、100キロの恵まれた体格を生かし、日本航空高石川では高校通算53本塁打をマークした。両親から名付けられた「鵬」という名前は、中国の伝説の鳥が由来。内藤選手自身も「格好良い名前の通りの活躍をしたい」とその名に誇りを抱いている。
◆自信になった初ヒット
ドラフト2巡目指名の期待に応えるように、B組スタートだったキャンプの打撃練習で柵越えを連発。オープン戦メンバーに抜擢された。
初ヒットは3月14日、4番DHでフル出場した東北楽天ゴールデンイーグルス戦。則本昂大投手を相手に、4回無死一、三塁で、1ボールから145キロのストレートを強振して右中間へ運んだ。「相手投手の名前に負けてしまわないように、とにかく集中しました。どんどん振って勝負していくことで、タイミングや感覚を学べたと思います」。エース格の投手から放った先制二塁打に手応えをつかんだ。
◆ファームでレベルアップを
現在は「守備も走塁もバッティングもまだまだ。いっぱい練習して成長して、早く1軍のレベルになりたい」とファームで懸命にレベルアップを図っている。
再出発となって迎えた3月21日、中日ドラゴンズとのウエスタン・リーグ開幕戦では、2打席目に逆転2ランホームランを放つ。自身プロ初のホームランが値千金弾となり、喜びをかみしめながら初めてのヒーローインタビューに挑み「これからもチームが勝てるように精一杯頑張ります」とアピールした。
3月31日のウエスタン・リーグ公式戦対福岡ソフトバンクホークス戦では、3回一死一塁から、狙いを絞った変化球を捉え、レフトポール直撃の第2号2ランホームランを放った。
「強く振っていても、力がうまく抜けているように見えるスイングがしたい」と、埼玉西武ライオンズの中村剛也選手のバッティングを理想とする。ティーバッティングでは、身体の近くで打つ感覚を染み込ませるため、片腕ずつでもバットを振ってしっかりと軌道を確認するという。高校時代からの練習を継続させ、自身に合ったバッティングを追求する。
◆乗り越えた不振
高校3年春の肉離れをきっかけに、長い不振を経験した。「ドラフトに関わる大事な時期に打てない。どう頑張っても、全てがしっくりこない。本当に最悪でした」。大好きだったはずのバッティング練習中、指導者や後輩への申し訳なさと悔しさから、初めて泣きながらバットを振ったという。
自身の胸にあったのは、内藤選手が中学生の時に亡くなった恩師からの言葉「輝け」。少年野球チーム「六田ファイターズ」の卒団時に、伊藤弥栄元代表から内藤選手へと贈られた特別な言葉だった。自室には伊藤代表とのツーショット写真をずっと飾っている。
「これまで支えてくれた人たちのためにも、野球が大好きな自分のためにも、絶対にプロに行きたい」。投げ出さずにバットを振り続け、徐々に本来のバッティングを取り戻した。
「あのマイナスの経験があったから、自分自身と向き合えました。強くなれました」。プロの世界で立ちはだかる壁も、必ず乗り越えるという強い覚悟をにじませる。目標とするプロ通算500本塁打も「今のペースじゃ難しいかもとか言われても、途中で絶対にあきらめません。こだわり続けます」と、はっきりと宣言する。
◆幽霊は苦手
怖いものなしの度胸を持ち合わせていると思いきや、どうしても苦手なものがあるという。「おばけとか心霊現象とかが本当に無理です。高校は二人部屋でしたが、今は一人部屋なので…、夜中こわくてトイレにいけません。朝になるまで絶対に我慢しています」。人懐っこい笑顔を見せながら、気弱な一面をさらけ出す。そんなさっぱりとした明るい性格は、理想とする選手像「誰からも愛される選手」にも繋がる。
強い覚悟と高い目標を抱き、夢中で汗を流す内藤選手。親からもらった名前、恩師から贈られた特別な言葉、そして日々の学びと経験を翼に「輝く伝説の鳥」として羽ばたこうとしている。(西田光)