「マウンドの違い」とは? グラウンドキーパーに直撃 「心を込めて整備を」

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 ダイヤモンドの中央に位置するピッチャーマウンド。1.3ヘクタールに及ぶ平坦なグラウンドで唯一盛り上がったその場所は「ピッチャーの聖域」とも呼ばれる。そこから投げ込まれる一球一球の行方にスタンドは沸き、数々のドラマが生まれていく。その“小さな大舞台”を作り上げているのがグラウンドキーパーだ。京セラドーム大阪のグラウンド整備を担うグリーンシステム株式会社の岩田陽介さんに話を聞いた。

◆高さや傾斜はどの球場も同じ

 公認野球規則によると、マウンドの高さは25.4センチ、勾配は1フィート(30.48センチ)につき1インチ(2.54センチ)と、細かく定められている。

 だが、すべての投手が口にするとおり、マウンドはそれぞれの球場ごとに異なった様相を呈する。バックネット裏スタンドの形状や看板の配置、ファールグラウンドの広さといったマウンドから見た各球場の視覚的な特徴は、その場を支配しようとする投手に少なからぬ影響を与える。水はけのために作られたグラウンド内のわずかな傾斜も、投手が体感するマウンドの高さや傾斜を違ったものにしてみせる。

写真:国際基準を意識して作られた京セラドーム大阪のマウンド

◆国際基準を意識したマウンド

 「中でも」と岩田さんは言う。「一番の違いはマウンドの硬さではないかと思います」。土の素材と硬さについては各球場に委ねられている。水分を飛ばしたカチカチの硬さ、水を含んで粘りがある硬さ。「いろいろあるから個性が出やすいです」。20年以上のキーパー歴を持つ岩田さんのこだわりもそこにある。

 京セラドーム大阪のマウンドは、最近は国際基準を意識して硬めに仕上げている。メジャーリーグで使われている粘土「マウンドクレイ」を用いて整備している。

写真:霧吹きを使ってマウンド内の水分を調整する岩田さん
写真:ハンマーで叩き、新しい土を馴染ませる岩田さん
写真:「タンパー」を使ってマウンドを押し固める岩田さん

◆毎回異なる整備

 軸足を置くピッチャープレート前と、踏み込む足の着地点付近。マウンドづくりはこの2カ所を入念に行う。
 先端に爪のついた「レーキ」を使い、土に無数の細い溝をつくる。これにより、新しく乗せる土が馴染みやすくなる。その上に霧吹きで水をかけ、丁寧にマウンドクレイを乗せる。ハンマーで慎重にならし、徐々に力を加えて叩いていく。この時の音の高さと跳ね返りで硬さを感じ取っているという。
仕上げに「タンパー」と呼ばれる機材を使って押し固める。重さおよそ5キロの用具を、持ち上げては下ろす。カン、カンと特徴的な金属音がドーム全体に響く。

 「100回整備すれば100回すべて整備の仕方が微妙に違います」。その日の土の感触や温度、湿度によって水加減と土の叩き方を変化させ、理想とする硬さに仕上げていく。試合開始時刻にベストなマウンドになるよう、水分の蒸発まで見越して作業は進められる。

写真:マウンドの仕上げにかかるグラウンドキーパーたち

◆ブルペンの跡もチェック

 岩田さんのこだわりは、ブルペンでも発揮される。まずは投手のスパイクの跡に注目する。プレート前の穴の掘り方、踏み込んだ足の向き。そこに誰もいなくても、誰が投げていたかすぐにわかるという。

 「投球位置を数センチ一塁側にずらしたな、とか、軸足の踏ん張り方を変えたかな、とか。そんな違いもわかります」。これらの日々の気付きを生かしてマウンドをつくっている。

写真:マウンドで笑顔を見せる岩田さん

◆より良いマウンドを

 自身も社会人チームなどで投手経験がある岩田さん。合わないマウンドで投げた時にはコントロールが安定せず、翌日まで腰の張りが残って辛かったという。「マウンドは投手の調子に直結します。投手に意見ももらいながら、これからも心を込めてより良いマウンドをつくっていきたいです」と決意を口にした。

 直径5.48メートルの小さな山。投手が躍動する主戦場には、繊細な技術と確かな経験が詰まっていた。(西田光)

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