自分の色を探して スタジアム・ボイス YUTOのルーキーイヤー 「もっと成長したい」

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 勝敗は覚えていない。十数年前、小学生向けの招待券をきっかけに京セラドーム大阪を訪れたYUTOの記憶に残ったのは、スタジアムの熱気だった。ボールがミットに収まる音。スタンドから湧き上がる歓声。そして、独特な抑揚で響くスタジアムMCのバッターコール。
 その一つ一つに心を震わせた少年が、今シーズン、バファローズの「スタジアム・ボイス」としてマイクを握った。「技術的にまだまだ足りないなと思うことばかりの1年でした。これからもっと成長して、球場に来てくださる皆さんの時間をより特別なものにしたいです」。23歳、YUTOの“ルーキーイヤー”を追った。

写真:小学生の頃からバファローズを応援していたYUTO

◆「行くしかないと思って」

 兵庫県で生まれ育ったYUTOは、かねてから英語に強い関心を持っていた。洋楽やアメリカの動画に親しむ中で、高校の頃から「将来、英語を使った仕事ができたら」と考えるようになった。進学先はアメリカの大学だった。
 2022年1月にアメリカへと渡り、帰国後は語学講師や教材制作の仕事に携わった。受講者から「いい声ですね」と声をかけられることも多く、声を使った仕事にも興味を抱くようになっていた。

 転機が訪れたのは昨秋、バファローズのスタジアムMCの公募だった。経験不問の募集資格を見て、「行くしかないと思いました」
 英語を生かしたアナウンスを武器に200倍を超える選考倍率を勝ち抜き、スタジアムMCの座をつかんだ。

写真:中学時代から愛用している電子辞書で標準語の発音をチェックするYUTO
写真:「Bsラジオ」のコーナーで和製英語に関するクイズを出題したYUTO

◆試行錯誤の日々

 スタジアム・ボイスとして活動した一年は、YUTOにとって「怒涛の日々」だった。
 シーズン序盤は、選手交代のアナウンスにも緊張した。「すぐに伝えられず、試合進行が少し遅れてしまったこともありました。本当に申し訳ないです」

 進行のアナウンスに慣れてくると、次は滑舌や声量が気になった。
 「今日はもっとメリハリをつけて大きな声を出そう、この発音をもっときれいにしよう。そう意識してみると、他のできていたことができなくなったりして。うまくいかないことばかりでした」

 試行錯誤は試合後も続いた。
 アナウンスブースで聞く自分の声と、スピーカーから流れて反響した声は異なる。知人に自身のスタメン発表をスタンドから録音してもらい、何度も聞き返して改善点を探した。

写真:今シーズン、「スタジアム・ボイス」として活動したYUTO

◆選手たちに背中を押されて

 思うようにいかず落ち込む日もあったが、そんな時に力になったのが「グラウンドで戦う選手たちの姿」だった。

 小学生の頃から応援してきたチーム。アメリカの大学に在籍していた頃も、海の向こうから戦況を追い続けた。選手がどんな歩みをたどり、悔しさを乗り越えて一軍の舞台に立っているのか。長年応援してきたからこそ、その背景にも思いを巡らせてきた。

 今シーズン、特に刺激を受けたのが高卒3年目の堀柊那選手だった。
 「顔つきもぐっと凛々しくなって、物怖じせずに外国人投手もリードしていた。自分より年下なのに本当にすごいなと感じました。僕ももっと頑張らないと、と思わせてくれました」

 スタジアム・ボイスとなった今も、胸の奥にある思いは、ファンとして応援していた頃と変わらない。
 「サヨナラ勝利の瞬間なんて本当に心が震えます。ファンの皆さんと同じ気持ちで、その一瞬を共有できる。この1年で、やっぱり僕はバファローズが好きなんだなって実感しました」

写真:オリっこのアナウンス体験をサポートしたYUTO

◆「京セラに帰ってきた」と思える声に

 球場には、海外から訪れる方の姿もある。英語でのアナウンスも、YUTOにとって大切な強みの一つだ。

 「あらゆる人に対してオープンな球場の雰囲気をつくっていきたいです。日本の方には、英語のアナウンス、カッコよかったね、面白かったねと思っていただきたい。英語圏からお越しの方々には、英語だから進行が分かりやすい、親しみやすいと思ってもらえるとうれしいです」

 思い描く理想の原点は、小学生の頃の記憶にある。
 「僕の声を聴いたら『京セラに帰ってきた』とほっとしてもらえる存在になりたいです。そのためにも、これからもっと自分の色を探し続けないと」

 8月の「オリっこアナウンス体験」の日、うれしい出来事があった。子どもたちが選手名をコールした時、アクセントの付け方が自分のアナウンスとそっくりだった。
 「僕の真似をしているつもりは無かったのかもしれませんが、そのオリっこたちが普段から球場に来てくれて、僕の声を聴いてくれているんだなと実感しました。とてもうれしくて励みになりました」

 来シーズンもYUTOはアナウンスブースから、スタンドへとその声を届ける。十数年前、心を震わせたあの日のように、誰かの特別な時間を彩るために。(西田光)

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