「空を飛ぶ時とは比べ物にならないくらい、緊張しています」。9月12日、京セラドーム大阪で行われた「第9回なにわのHERO特別始球式」。航空自衛隊アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」のパイロット・松浦翔矢さん(31)がマウンドに立ちました。
昨年の大阪・関西万博で展示飛行を成功させ、多くの人々を魅了した空のヒーロー。マウンドからスタンドを見上げて一礼すると、球場は大歓声に包まれました。
◆年間約30回の展示飛行
大阪の街を明るくすることに貢献した地元のヒーローをお招きする「なにわのHERO特別始球式」は、今回で9回目を迎えます。
松浦さんは大阪府吹田市出身。2024年からブルーインパルスの3番機のパイロットを務めています。全国の航空祭や国の行事などで年間30回近くの展示飛行を行い、大空から夢と感動を届けています。
◆12年間野球を経験
そんな松浦さんの少年時代は、野球とともにありました。小学1年生から12年間、軟式野球を経験しました。
そして、大のバファローズファンでもあります。そのきっかけは小学6年生の頃、所属していた吹田市の少年野球チーム「山田西リトルウルフ」の先輩、T-岡田さんがバファローズに入団したことでした。
ファンクラブにも入会し、京セラドーム大阪には何度も足を運びました。
球団応援歌「SKY」は今もお気に入り。二人の幼い愛娘にも日ごろから聴かせ、“英才教育”中だといいます。
◆「おばちゃん」の教え
始球式当日の本番前、試合中継で解説を務めるT-岡田さんが、松浦さんのもとへ駆けつけてくれました。二人が言葉を交わすのは初めてでしたが、同じチーム出身とあって、すぐに会話のキャッチボールが始まりました。
「おばちゃんから、T-岡田さんの話はたくさん聞いていました。『本当にすごい選手がいたんだぞ』って」
「僕もおばちゃんから『ウルフの卒団生がブルーインパルスで大阪を飛ぶので見てください』と連絡をもらっていました。テレビで見ていましたよ」
二人の口からそろって出てきた「おばちゃん」とは、山田西リトルウルフの指導者・棚原安子さん(86)です。「第5回なにわのHERO特別始球式」にも登板しました。
昨年、松浦さんが大阪・関西万博で展示飛行を行った際には、山田西リトルウルフの後輩たちがグラウンドに集まり、ウルフの「W」の人文字をつくって空を見上げたそうです。
T-岡田さんから「少年時代に教わった中で、今も大切にしていることはある?」と聞かれた松浦さんは「おばちゃんはいつも『礼儀正しいひとになる』『友情を大切にする』、その次に『野球技術を身に着けること』が大切だと言っていました。今になって本当に大事なことを教わったと実感しています」。かみしめるように話しました。
後日、この日の二人のひとときを棚原さんに伝えたところ、「ついこの間まで少年野球で頑張っていた子どもたちが、それぞれの道で成長してたくましくなっている姿を見られるのは、とても感慨深いです。私もまだまだ頑張らなくてはと思います」。活躍する教え子たちへの思いを、誇らしげに語ってくれました。
◆ブルーインパルスのメンバーと練習
始球式の話を聞いた時は、「信じられなかった」と振り返る松浦さん。
「うれしすぎて、すぐに硬式球を買いに行きました」
軟式野球一筋だった松浦さんにとって、硬式球を使うのは初めて。キャッチボールで胸を貸してくれたのは、ブルーインパルスのメンバーたちでした。仕事が始まる前、仕事を終えた後にもボールを握り「ほぼ毎日。雨の日以外はやっていました」。約2カ月間、仲間たちと共に入念に練習を重ねてきました。
迎えた本番。松浦さんは青いパイロットスーツに身を包み、マウンドに立ちました。胸元、両腕には、選ばれたパイロットの証でもあるブルーインパルスのワッペンが燦然と輝いて見えます。
捕手のミットをめがけて力強く右腕を振りぬいた松浦さんに、スタンドからは万雷の拍手が送られました。
◆119キロ
始球式を終えた松浦さんは、憧れのマウンドから見た景色をこう振り返りました。
「幸せな空間でした。自分が中心にいる感覚がすごかったです。プロのピッチャーの特権を味わわせていただきました」
さらに、こんな思いも口にしました。
「僕が投げたことをきっかけに、野球少年が少しでもブルーインパルスや航空自衛隊に興味を持ってくれたらうれしいです」
この日の松浦さんの球速は119キロ。
「普段は、時速900キロで飛んでいます!」
スタンドを沸かせた119キロも、ブルーインパルスのパイロットにとっては物足りない数字だったかもしれません。(西田光)