「先発ピッチャー、YAMAMOTOOO YOSHINOBU!!」。エネルギッシュなバリトンボイスに導かれるように、京セラドーム大阪のスタンドが期待と興奮で満ちあふれていく。スターティングメンバーを読み上げた声の主は、球団ボイス・ナビゲーターの神戸佑輔(かんべ ゆうすけ)。オリックス5代目の男性スタジアムアナウンサーとして、今年6年目のシーズンを迎える。
◆生粋のオリックスファン
1988年生まれの神戸は、神戸市出身。神戸の市外局番にあやかった背番号「078」のユニフォーム姿で、放送室のマイクを通じて場内に声を響かせている。
子どもの頃から大のオリックスファンで、野球少年だった。グリーンスタジアム神戸(現ほっともっとフィールド神戸)での試合が楽しみで仕方なく「観戦に行ける日は、クリスマスと誕生日に並ぶ一大イベントでしたよ。当時のイチロー選手たちは最高に格好良くて…」。目を輝かせて幼い頃の思い出を語る。
◆試合中は頭と喉をフル回転
試合中は自身でスコアをつけながら戦況を追い、選手のコールはもちろん、ヒットやホームランに合わせて球場を盛り上げるアナウンスも行う。イニング間にも場内アナウンスがあるため、息つく間もなく頭と喉をフル回転させる。開門以降、ほぼ席を立たずにマイクと向き合い続けるという。
「試合中は何が起こるかわかりませんし、トイレに行きたくないので水を飲むのも調整しています。慣れるもので、今ではほぼ水分を摂らずに最後までアナウンスできる喉の力がつきました」と平然と話す。球団事業企画部の後藤俊一部長も「声が素晴らしいのはもちろんですが、複雑な選手交代なども正確にスムーズにこなしてくれるので、本当に安心感があります」と大きな信頼を寄せている。
◆DJ KIMURAさんから学んだ表現力
そんな神戸にとってのターニングポイントは2021年10月だった。1991年から2000年までオリックスのスタジアムDJとして活躍したDJ KIMURAさんから、数時間にわたって教えを受けたことがきっかけとなった。
DJ KIMURAさんは、プロ野球界の男性スタジアムアナウンサーの草分けで、神戸がボイス・ナビゲーターを務める前から尊敬してやまない存在。その大先輩から教わったのは、選手の名前を読み上げる際に、その選手のプレーをイメージする「表現力」だった。例えば、T-岡田選手ならホームランの放物線を描くように抑揚をつけ、安達了一選手なら巧みで俊敏な守備をイメージした声色に合わせる。
「それを意識するようになって自分自身もすごく楽しくなりました。山本由伸投手の場合は絶対王者、エースの風格を声に乗せています。近藤大亮投手の場合は力強い直球のイメージです。宮城大弥投手は沖縄らしい登場曲も踏まえながら、本人が醸す丸く柔らかい雰囲気を出すようにしています」
放送室から見えるベンチの雰囲気にも目を光らせ、自身の中で一人一人の選手像を膨らませる。情報が少ない新人選手についても調べれば調べるほど胸が弾んだ。「それまでは、ある意味でがむしゃらにやっていた部分もありました。ボイス・ナビゲーターとしての本当のやりがいと喜びを知れたのは、DJ KIMURAさんのおかげです」と振り返る。
2021年、ほっともっとフィールド神戸で開催された日本シリーズ第6戦。5時間を超える死闘が終わった後、DJ KIMURAさんに報告した。「この球場で日本シリーズのアナウンスができたのは、僕とDJ KIMURAさんだけです。最高の思い出になりました」
◆「選手のイメージを伝えられる力を」
今シーズンに向けて、神戸に意気込みを聞いた。「自分の声だけで球場の全員に選手のイメージを伝えられる力をつけたい。そのために、もっと良い声を追求して、出せる音域を広げていきたいです」。技術を磨き、自身の表現力の幅を広げていくことを誓う。
球場にいるからこそ味わえる野球の楽しさ。それを増幅させて来場者に届けることが自分の役割だと熱く語る神戸。「スタンドの皆さんのチームへの熱い思いを、応援という形で最大限まで引き出すこと。それがボイス・ナビゲーターの仕事だと思っています」。そう語る目には、野球少年だった幼いころの輝きが今も宿っていた。初代スタジアムDJの流儀を受け継ぎながら、進化を続けるバファローズのボイス・ナビゲーター。6年目のシーズンが間もなく始まろうとしている。(西田光)