うたリポ 田畑実和の歌に乗せる願い 「音楽で夢を追う人にエールを」

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二回裏終了後のイニング間、京セラドーム大阪に透明感あるおなじみの歌声が響く。ビジョンに映し出されるのは、3代目スタジアムリポーターの田畑実和。ギターをかき鳴らしながら、バファローブル&ベルと共にグルメやイベントを明るく紹介する。本拠地開幕戦では、おすすめのチキンをアナウンスした後、ポップなメロディーに今シーズンのキャッチフレーズを乗せて締めくくった。「美味しく応援!We can do it!♪」
スタジアムリポートに歌を取り入れる「うたリポ」という新たなスタイルを築いた田畑。就任から3年目の春を迎えた今、うたリポとしての思いと、アーティストとしての真髄に迫った。

写真:放送室で弾き語りの練習をする田畑

◆イニング間「楽しい曲で一体感を」

シンガーソングライターとしての顔も併せ持つ田畑は、兵庫県明石市生まれ。劇団四季の舞台に感動し、小学生の頃から音楽の道を志した。高校時代は吹奏楽部でユーフォニウムを担当し、高校野球兵庫大会に出場する野球部を応援した。基礎から音楽を学ぼうと、大学では声楽を専攻し、オペラやオーケストラの舞台を経験。さらに、バンド活動を通してギターやピアノ、ドラムに触れるなど、さまざまな形で音楽に関わってきた。
バファローズのリポーターには「音楽の幅を広げるきっかけになるのかも。やってみよう」と、チャレンジ精神を持って応募。歌でリポートする新しさが高く評価され、見事その座を勝ち取った。
ホーム試合がある日には、試合開始4時間前には球場入りし、打ち合わせや原稿チェック、アナウンスの練習をして開門を待つ。イニング間に弾き語りする曲は、PRする内容に応じてメロディーと歌詞を調整する。「正解はないので難しいですが、球場の一体感を出せるような楽しい曲にできればと思って作っています」と語り、じっくりと仕上げていく。

◆プロ野球もミュージカルと同じ「舞台」

うたリポの仕事を通じて、さまざまな感情や思いを吸収しているという田畑。「選手たちの一球一打にかける思い、球場の熱気や胸の高鳴りは、うたリポを務めたからこそ知ることができました」
球場で感じたことはスマートフォンのメモに書き留め、シンガーソングライターとしての創作活動にも生かしている。2022年のデビューシングル「ココロミュージカル」もその一つ。恋する心情をミュージカルに例えた歌詞だが「プロ野球もミュージカルと同じ、一つの舞台。その大きな舞台への憧れやときめきを歌に乗せることができました」と思いを込めて歌う。

写真:2022年6月、試合前にグラウンドで歌声を披露する田畑

◆頑張る人に寄り添う歌詞

田畑は3年半前、新卒で入社した会社を退職し音楽一本に専念する覚悟を決めた。うたリポに就任するまでの約1年半、不安や焦りを感じることもあったという。「オーディションでうまくいかない時は、周りの方と比べてしまって、自信が無くなってしまうことも多々ありました」と振り返る。
だからこそ、シンガーソングライターとして「夢に憧れる人や目標に向かって頑張る人の気持ち」を大切にする。二軍で努力を重ねる選手たちや、プロ野球選手になろうと頑張る人たちにこそ、思いを巡らせる。
自身の経験とその思いを投影した歌が、球団応援歌「SKY」と共に収録されたプレデビューシングル「voice」。夢に向かってもがく選手たちに寄り添う言葉を歌詞に乗せている。 「誰にも知られたくない姿 抱きしめ 泣いた夜もある」(「voice」作詞:田畑実和・吉水孝之 2021年)と、葛藤や苦しみを描きながらも、サビでは素直な言葉で夢を追う全ての人にエールを送る。「まっすぐな まなざし そのままで あなたの夢が いつか叶うといいな」(同上)。自身の歩んだ道が決して平坦ではなかったからこそ、温かな応援ソングに仕上がった。

◆勝利の女神

「くじけそうになった時、応援してくれる家族や友達の存在が心の支えになって、乗り越えることができました」と田畑。今度は自身の歌が、チームをはじめ、頑張る人々の背中を押すきっかけになることを願っている。
2021年、田畑がうたリポに就任した年に、チームはリーグ優勝し、2022年にはリーグ連覇から日本一をつかんだ。ファンの間で“勝利の女神”と呼ばれているが、本人はこの話題を振られると慌てて首を振る。「本当に恐縮で…。私じゃなくて、チームを応援し続けたオリ姫の方たちこそが勝利の女神なんです。そういう意味では、ファンの皆さんと一緒に今年も女神になれたら」
ふんわりとした優しい雰囲気をまとう謙虚な人柄は、自然と人の心を和ませる。バファローズの歌姫は、等身大のオリ姫。今シーズンも、チーム、そして夢を追う全ての人に、温かなエールを送り続ける。(西田光)

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