ファームスタジアムアナウンサーの矢坂まり 「皆の笑顔のために」日々奔走

Share

試合前は来場者を笑顔でお出迎え。試合中は真剣な表情でスコアボードを的確に操作。ひとたびマイクを持てば、透き通った美声で球場を優しく包み込む。
ファーム試合運営の仕事をテキパキとこなすのは、矢坂まりアナウンサー。周囲に気を配りながら朗らかに働く彼女は、多くの信頼を集めている。「ファームの皆は家族のような存在。そう思える場所で働けることに毎日感謝しながら働いています」。彼女のこれまでの軌跡と仕事への思いに迫った。

写真:NPB AWARDS 2022では石岡諒太選手㊧、渡部遼人選手㊨と記念撮影する矢坂アナウンサー

◆11年目のシーズン

野球をはじめスポーツが大好きの矢坂。式典やイベントでのMCとして働いていた時に知人から声をかけられ、ファームのスタジアムアナウンサーとなった。現在バファローズでは11年目のシーズンを迎え、二人の後輩アナウンサーをサポートしつつ、現場を引っ張っている。

求められる仕事はアナウンスのみならず、イベントMC、スコアボードのオペレート、音響操作など多岐にわたる。球団スタジアム運営グループの岡村義和グループ長は「スタジアムアナウンサーとしての仕事はさることながら、幅広い業務を的確にこなしてくれます。全体を見て細かい気配りもしてくれるので、NPBや他球団の関係者からも評判が良く本当に頼りになります」と高く評価する。

他球団主催のファーム公式戦を視察し、アナウンスやイベントについて学ぶなど勉強も欠かさない。これまでの働きが称えられ、NPB AWARDS 2022では「ウエスタン・リーグ功労賞」を受賞。今年3月6、7日、京セラドーム大阪で開かれたWBC強化試合のアナウンスも行うなど、活躍の幅を広げている。

写真:アナウンス室の前でほほえむ矢坂アナウンサー
写真:ビジョン操作を行う矢坂アナウンサー

◆失敗の繰り返し

長年勤めているからこそ、失敗も数多く経験しているという矢坂。「雨で絶対に試合中止だと思っていたら『今日やるよ!』と連絡が来て、飛び起きてギリギリで駆けつけたこともあります」と恥ずかしそうに話す。

韓国からも数多くのチームが参戦するフェニックス・リーグに派遣された時には、聞き慣れない海外チームの選手の読み上げに苦戦。スタメンを発表した後に、実は大幅な変更があったことを知らされ、顔面蒼白になったこともあるという。

「今でも失敗と改善の繰り返しです。でも、ファームには特別な優しい雰囲気があって、落ち込むことがあっても前向きに頑張ろうという気にさせてくれます。ファンの方を含め周囲の人が温かいから続けられています」と矢坂は笑みをこぼす。

◆引退試合

そんな矢坂が特に気持ちを入れて臨むのは、引退試合の日。ファームの引退セレモニーの内容は、アナウンサーたちと球団スタジアム運営グループで意見を出し合って決める。選手の一軍での登場曲を流し、オリジナルのビジョン映像を加えるなど、温かな演出を考えている。
「一軍のように盛大にはできないけれど、ファームに関わる皆で思いを込めてセレモニーを手作りし、お別れを惜しみます」と矢坂は語る。

当日には感情がこみ上がることも。小谷野栄一選手(現打撃コーチ)の現役引退が決まった2018年、ファームの引退試合でアナウンスを務めた矢坂。「選手の交代をお知らせいたします。―に代わりまして、小谷野」。最後のコールだと思うと涙がこぼれ、声を詰まらせながら代打出場のアナウンスを読み上げた。

「試合が終わってからも遅くまで残って一生懸命練習している選手の姿をずっと見てきています。だからこそ、引退時には寂しさや悔しさ、色んな感情が出てきて…よく泣いてしまうんです。本当はダメなんですけどね」。選手を温かく見守ってきたアナウンサーとしての思いと優しさが、自然と声に乗り球場全体を包む。

◆パワーの源は「笑顔」

現在意識して取り組んでいるのは後輩の育成。「すごく思い入れのある仕事だからこそ、後輩アナウンサーたちには色んなことを教えていきたいと思っています。一緒にもっとファームを盛り上げていきたいです」。ファームを愛しているからこそ、これまで得た知識や経験を惜しみなく下の世代に伝えている。

パワーの源は「皆さんの笑顔」と即答。「私たちが力を合わせて試合運営を行うことで、たくさんのファンの方々が笑顔になってくれると本当に嬉しいです」と生き生きとやりがいを口にする。
いつもにこやかに仕事をこなし、ファームを支える矢坂。今日も透き通った声を球場に響かせている。(西田光)

Share

前の記事を見る

次の記事を見る