2軍用具担当の山内嘉弘 職人技の“選球眼”でボールを目利き

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澄み切った朝の空気に包まれた杉本商事バファローズスタジアム舞洲。誰よりも早くグラウンドに足を踏み入れ、用具倉庫でボールを仕分ける球団スタッフがいた。2軍用具担当の山内嘉弘は、毎日早朝に起床して舞洲に通う生活を続けている。「みんなが気持ちよく練習できるように色んな準備をします。毎日仕事は山積みです」と話す山内2軍用具担当の一日に迫った。

写真:練習の準備をする山内

◆元リリーフエース

山内は1987年ドラフト2巡目で阪急ブレーブスに入団。89年には12セーブをマークしリリーフエースとしてオリックスのブルペンを支えた。94年、トレードでヤクルトに移籍し3年後引退。その後は打撃投手としてオリックスに戻り2006年から2軍用具担当を務めている。

2軍用具担当の仕事は多岐にわたる。特に試合前の練習時間は慌ただしい。練習メニューを先読みしつつ、必要な用具、機材を準備する。バッティングゲージやマシン、ボールケースなど重い機材を速やかに運ぶため、体力も必要となる。照りつける太陽の下で球拾いも行い、選手たちと共に汗を流す。
試合中にはスコアボードの下からグラウンドを見渡し、ファールボール警戒とボール回収の指示をする。山内を手伝う6人のスタッフに仕事を割り振りつつ、チームが滞りなく練習と試合に打ち込める環境をつくっている。
山内を慕うスタッフの一人、大学生の辻彪さん(21)は「力仕事もあって大変だけど、山内さんがアルバイトの僕たちとも分け隔てなく気さくに接してくれるので働いていてすごく楽しいです。とても愛着のある仕事です」と話す。

写真:ボールクリーナーにボールを入れる山内

◆1日に1500個のボール

山内が担う数多くの仕事の中で、7割近くを占めるのがボールの管理だという。「野球はボールがないと始まらないですから。毎日えげつない数が要ります」という山内の言葉通り、練習量が多いファームでは1日約1500個のボールが使われる。その在庫管理や手入れを一手に引き受けている山内。試合展開によっては「練習が増えそうだな」と準備するボールを増やすこともある。

汚れたボールは専用のボールクリーナーを使うことで、一気に約120球の土汚れを自動で落とすことができる。この時にも山内の経験とセンスが生かされる。汚れ具合に応じて山内が10~30分の中で最適なタイマー設定をしている。「研磨剤を使っているので洗いすぎると傷んで質が落ちてしまうんです。落とす汚れは必要最小限にしています」
さらにボールを美しく仕上げる方法があるという。「自分のユニフォームで磨くことです。革のざらつきも直せますし、何より傷みにくい」。時間が許す限り一球ずつボールをこする。山内のユニフォームの右腰がしょっちゅう黒く汚れているのは、ボールを丁寧に扱った証だ。

写真:試合前の練習が終わった後、ボールを仕分ける山内たち

◆目ではなく手でボールを見る

ボールの“一生”は長い。ファームの試合で使われた後は投手のキャッチボール用に回る。その後はボールの質に応じて、ノック用、バッティング用、ティーボール用の順に山内が用途を変化させていく。最終的には高校野球連盟に寄付することで、球児の練習にも使われる。

一軍で使われたボールもファームの練習用として舞洲に送られてくる。さまざまな状態のボールが混在しているため、最初に山内が“ランク分け”していく。「収穫した野菜の選定みたいなイメージですね」とジョークを飛ばしながら手に取っていくが、そこに山内ならではの職人技が光る。

「目ではなく手でボールを見るんです。汚れていても良いボールはたくさんありますから」。革の色移りや土でジャガイモのように真っ黒になったボールも、十分質が高い場合がある。縫い目にほつれはないか、雨水を含んで重くなっていないか、革が毛羽立っていないか、十分な硬さがあるか。握りながら一つ一つ丁寧に確認して分けていく。
ボールを目利きする鋭い“選球眼”。スタッフの一人は「初めて見た時はびっくりしました。どのボールも同じにしか見えなかったです」と話す。分厚く大きな手を使って、山内だからわかる微細な差を感じ取っている。

写真:1日を終え、夕暮れ時のグラウンドに立つ山内

◆山内だからできる仕事

山内は3日1回程度、打撃投手としてマウンドに立っている。大切にボールを扱う理由を「頑張っている選手たちのために良いボールをそろえておいてあげたいんです」と、額の汗をぬぐいながら笑顔で語る。

試合後の練習の後片付けを完了させると、あっという間の一日が終わった。「山内さんのやっている仕事は、とてもじゃないけどまねできません」。スタッフたちがそう漏らす慌ただしい毎日。その言葉も山内にとってはやる気の源だ。「自分のできることを最大限やって、チームの役に立てるなら幸せです」。柔らかな夕方の日差しがグラウンドを包む。山内が運ぶボールケースもすっかり茜色に染まっていた。(西田光)

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