バファローズの広報に期待の新戦力が加わった。昨シーズン限りで現役を引退した石岡諒太が球団広報グループの一員となり、キャンプ地の宮崎市清武総合運動公園内を駆け回っている。「明日の練習終わってからテレビのインタビューお願いできる？」「OKっす！わかりました」。自然体で選手と言葉を交わし、テキパキと取材の調整を行っていく。「立場がガラッと180度変わったので大変です。でも、すごくやりがいを感じています」。そう語る石岡広報の表情には充実感が滲む。

◆メディアと選手のパイプ役

石岡広報は、身長188センチの恵まれた体格を生かした打撃と俊足が持ち味の元内野手。JR東日本から2015年ドラフト6位で中日ドラゴンズに入団し、2022年7月にトレードでバファローズに移籍した。神戸市出身で、幼少時代には度々ほっともっとフィールド神戸に足を運んでいたオリックスファン。前傾気味の姿勢で長い手足を豪快に動かすランニングフォームが「新世紀エヴァンゲリオン」初号機に似ていることから「エヴァ」の愛称で親しまれた。

広報の大きな役割の一つが、メディアと選手をつなぐパイプ役。例えば、メディアから取材依頼があれば選手に内容を伝え、スケジュールを調整し取材の場をセッティングする。キャンプ中は特に取材が多く、１日に10件以上をさばく日もある。トークショーやイベント出演の調整も行うため、石岡広報の手帳は予定の細かい文字でびっしり埋め尽くされている。

◆1日に2万歩

練習時間中も、キャンプ地内でトラブルが起こっていないか、困っている選手がいないか見回る。気付けば昼食を食べるタイミングを逸して夕方になっていた日もあった。「1日の歩数を確認してみたら2万歩を超えててびっくりしました」と汗をぬぐう。

時には「思い通りにいかずに慌てることもあります」という。キャンプ序盤は雨天が多く、練習メニューは度々変更に。急遽練習場所が室内練習場に移った時には、メディアが撮影するエリアを開放するためダッシュで鍵を開けに行った。

町豪将グループ長は「フットワークが軽くてずっと走り回ってくれています。昨年まで選手だったので練習の流れも場所も頭に入っていますし、うまく選手を気遣いながら調整を進めてくれるのでとても助かっています」と早くも信頼を置いている。

◆一生忘れないヒーローインタビュー

そんな石岡広報が、シーズン中に「すごく楽しみにしている仕事」がある。その日のヒーローをお立ち台へ連れていくヒーローインタビューのアテンドだ。

石岡広報は、初めてのお立ち台で見たスタンドの光景を「一生忘れられない景色」という。移籍して２日目、2022年7月10日のほっともっとフィールド神戸で行われた千葉ロッテマリーンズ戦だった。5打数2安打で勝利に貢献したヒーローは、地元・神戸のファンから送られた万雷の拍手に「めっちゃ気持ちいいです」と満面の笑みを浮かべた。
「こんなにたくさんのファンの前でインタビューを受けられるのかと興奮しました。それまで1軍で日の目を見ることがほとんどなかったこともあって、現役生活の中で一番嬉しかったです」と振り返る。

その日担当してくれた広報の姿も鮮明に覚えている。「ヒーローインタビューが終わってからのメディアの囲み取材では、タツさん（佐藤達也広報）がずっと一緒についていてくれました」。自身にとって大切な思い出となった晴れ舞台を今度は自分がサポートする。シーズンへの期待は膨らんでいく。

◆取材はモチベーションに

自身の経験からメディアの大切さは感じてきた。「僕にとって取材はすごくいい機会でした。話している中で自分の考えに改めて気付かされ、初心を思い出すこともありました。何より、メディアを通して自分のことをファンの方々に広く認知してもらえれば、モチベーションにつながります」。選手それぞれの考え方や負担を考慮しつつ、魅力を最大限発信したいと考えている。

今日もキャンプ地をおなじみのフォームで全力疾走する石岡広報。エヴァの新たな戦いは始まったばかりだ。（西田光）