オリックス・バファローズは9月16日、大阪の街を明るくすることに貢献した地元のヒーローに始球式を行っていただく「なにわのHERO特別始球式」を京セラドーム大阪にて実施しました。第5回目となる今回は、少年野球チーム「山田西リトルウルフ」の女性指導者でT-岡田選手の恩師でもある棚原安子さんにお越しいただきました。
◆OB・OG1200人以上
御年82歳の棚原さんは、1972年、吹田市で少年軟式野球チーム「山田西リトルウルフ」を夫の長一さん(84)と創設。「おばちゃん」の愛称で、半世紀以上にわたりノックを打ち続け、チームを温かく指導されてきました。「子どもたちから毎日エネルギーをもらっているので、一日座らなくても大丈夫です。家でも『しんどい』と言ったことはありません」と話すパワフルな女性指導者です。
チームOB・OGは1200人に上り、28期生にはT-岡田選手も。「野球を通し、世の中で働ける子を育てること」を教育方針とし、お金をかけず、子どもたちの自立を促す指導哲学にも注目が集まっています。
2020年には書籍「親がやったら、あかん! 80歳“おばちゃん”の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て」(集英社)を出版。今年3月には、NHK「ドキュメンタリー 春」でも特集されました。
◆T-岡田選手をスカウト
公園で虫取りをしていたT-岡田選手に何度も声をかけ、野球の世界に導いた棚原さん。T-岡田選手の少年時代を「やんちゃな子が多かった28期生の中で120点の性格の子でした。穏やかで怒った姿を見たことがない」と振り返られます。プレー面においても「本塁打はもちろん、左中間への二塁打がすごく多かった。グラブさばきも他の子とは違っていて、この子はプロに行けるかもと思っていました」と、当時から才能を発揮していたことを話されます。山田西リトルウルフの子どもたちにとっては憧れの存在で、度々名前が上がるそうです。
◆約3年ぶりの再会
T-岡田選手とは始球式前のわずかな時間で、約3年ぶりに再会を果たしました。「元気やったか?」「けがは大丈夫なんか?」などと温かい言葉をかける棚原さんに、T-岡田選手もほほを緩めました。T-岡田選手が「頑張ってね」と始球式へのエールを送ると、棚原さんは「18.44メートルはすごい長いから届けへんで。ほんまプロの人たちはすごいなぁ」と楽しそうに話し、緊張をほぐせたご様子でした。
◆溌剌とした投球
迎えた本番、バッターボックスにはもちろんT-岡田選手。「プレイボール!」とアナウンスが響きます。棚原さんは、ゆっくりと投球動作を開始しましたが体重をうまく乗せられなかったのか、仕切り直してもう一度。2回目は、豪快なワインドアップで大きく振りかぶり、溌剌とした投球を披露されました。放たれた山なりのボールはワンバウンドし、T-岡田選手のスイングをすり抜けて無事紅林弘太郎選手のミットへ。スタンド、ベンチからは大きな拍手が盛んに寄せられました。
◆感無量
始球式後、棚原さんは「一発目は“ボーク”ですね。でもランナーいなかったでしょう?」と照れ笑い。「届きはしなかったですけど、それは覚悟してたんで」とやりきった表情でした。マウンド上では、小学6年生だったT-岡田選手とのバッティング練習で、鋭い打球が太ももに当たって青あざを作った時のことを思い出されたそうです。棚原さんは「主人には『逃げへんから悪いんや』と言われたのに、翌週は主人も当てられて帰ってきました。『あれは逃げられへんわ』と言っていましたね」と懐かしそうに話し「今日は、打たれなくてよかったです」と明るい笑顔を浮かべられました。
始球式登板について改めて「夢にも思っていませんでした。プロの方々にとっての神聖な場所に初めて立たせてもらえて感無量でした」と話してくださいました。
◆大切な恩師
「おばちゃんは僕にとって大切な恩師の一人です」と語るT-岡田選手は「こういった舞台で再会することになるとは思っていなかったので、懐かしい気持ちになると同時に、素直に嬉しかったです」と始球式での“対決”の喜びを口にしました。そして「今後もおばちゃんにしっかりと成長した姿を見せられるよう、頑張っていきたいです」と自らを奮い立たせていました。棚原さんにとって「宝物のような存在」というT-岡田選手。おばちゃんとの再会は大きな力を与えてくれたに違いありません。(西田光)