球団オフィシャルカメラマンが語る! 後半戦ベストショット

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今シーズン、数々の激闘を制してきたオリックス・バファローズ。球団オフィシャルカメラマンの松村真行さんは、ホーム試合を中心に数多くの熱戦をレンズ越しに追い続けてきた。1万枚以上の中からセレクトした今シーズン後半戦のベストショットをお届けする。

◆歓喜のシャワー

まずは、8月2日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦でプロ初のサヨナラ打を放った茶野篤政選手の写真。打球がセンター前で弾みランナーが生還すると、たちまち宗佑磨選手が茶野選手に駆け寄った。抱き合う二人を光の粒が包み、劇的勝利の興奮を幻想的に際立たせている。「歓喜のシャワーをここまで細かい玉に見せられるのは写真だからこそ」と、松村カメラマンは静止画ならではの魅力を語る。

松村カメラマンにとってウォーターシャワーは最高の演出装置。天気や日照の変化がない京セラドーム大阪では、なおさら大きな効果を発揮する。水しぶきによって加えられる写真の貴重なアクセント。喜びに浸る選手たちを写す時、松村カメラマンの腕が鳴る。

◆特別な思いを込めた「後ろ姿」

続いて11月4日、日本シリーズ第6戦の試合前に山本由伸投手の背中を捉えた1枚。普段選手の後ろ姿を意識的に撮影することはあまり無いという松村カメラマンがあえてシャッターを切った。そこには特別な感情が込められていた。

「山本投手がいた7年間、オフィシャルカメラマンとして他の誰よりも彼をたくさん撮ることができて、僕は本当に幸せだったんです。最後になるかもしれないこの日は、山本投手の姿を1枚でも多く収めておきたいと思っていました。背中に刻まれた番号と名前は山本投手がここにいた“証”です。勝利への祈りと感謝を込めて撮りました」。これまでの数々の力投に思いをはせながら語る松村カメラマン。

負けられない “最後のマウンド”を目前に控えた山本投手は、どのような表情を浮かべていたのだろうか。見る人それぞれの思いがエースの背中に投影される1枚となった。

◆一瞬の差で変わる表情

同日、日本シリーズ初勝利を収めた山本投手。今シーズン最多の9回138球を投げ切り、シリーズ新記録となる14奪三振をマークした。集大成ともいえる熱投の後に中嶋聡監督と抱擁し、一気に緊張がほどけた表情を見せている。

松村カメラマンはこの写真について「手前みそながら山本投手が一番ほっとした時の表情を捉えられたと思っています。これ程安心しきった顔は見たことがありませんでした」と話す。

山本投手が息を吐ききる瞬間、ベストショットは一瞬。シャッター1枚の差で表情が微妙に変わってしまう。「カメラマンはみんな同じシーンを撮っていますが、それぞれ必ず異なっています。0コンマ何秒で変わる世界の中で、最も良い瞬間を切り取る。それができた時の達成感というのは大きなものがあります」と松村カメラマンは語る。

◆瞬時の判断

最後は、9月20日の千葉ロッテマリーンズ戦でリーグ3連覇が決まった直後の1枚。最後の打者を空振り三振に仕留めた山崎颯一郎投手と森友哉選手が共に喜びを大爆発させている。森選手の手にはしっかりとウイニングボールが握られている。

「何を捨て、何を捉えるか」。状況が刻一刻と変化する試合中は常に判断に迫られているという松村カメラマン。このシーンも例外ではない。「優勝が決まれば、きっとバッテリーが抱き合うだろうな」。そんな予想を立てていたものの、決まった瞬間に山崎颯投手がグラブを宙に投げたのは「完全に想定外」

ここで松村カメラマンの脳裏には「グラブを追う」選択肢も一瞬よぎる。マウンド付近は選手たちが一斉に駆け寄るため、バッテリー二人を確実に撮れる保証はない。結果論ではあるが、グラブの行く末を追えば安達了一選手によるナイスキャッチが撮れたかもしれない。あらゆる可能性を頭の中で巡らせ、松村カメラマンが判断の軸とするのは「ファンの皆さんに喜んでもらえるシーンを届けたい」思い。優勝の喜びを象徴するバッテリーに照準を合わせることを決意し、収めた写真だった。松村カメラマンは小さな判断を瞬時に行い、最高のシーンを捉えている。

今シーズンも数々の名シーンを収めた松村カメラマン。「自分でコントロールできない部分が多い中でたくさんのシャッターチャンスに巡り合えたのは、周囲に恵まれているからです。選手、球場、カメラ、そして写真を見てくださる方々、全てに感謝です」。謙虚に確かな手応えを語る。今シーズンの熱闘と感動を、ぜひ松村カメラマンのベストショットと共に思い出していただきたい。(西田光)

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