大好評!ペンライトの製作秘話 二人の女性球団職員が込めた思い

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 スタンド全体が、“ステージ”の一部になった。3月28日、京セラドーム大阪。開幕戦のセレモニー直前、場内は暗転していた。アナウンスが響く。「まもなく選手の入場です!」。ビートの効いた音楽が鳴り始めた瞬間、スタンドには無数の光が一斉に広がった。歓声に包まれる場内。リズムに合わせて、光は波のように揺れはじめた。その光景を、誰よりも心待ちにしていた二人の女性球団職員がいた。ペンライトの企画を担当したMD企画グループの粟屋椰南(あわや・こな)と、開幕セレモニー全体の演出を手がけたイベントグループの松元唯香(まつもと・ゆいか)。二人の挑戦が、たしかな「手応え」に変わった瞬間だった。

写真:Bs SHOPで発売されている「Buffaloesペンライト」

◆光が映える京セラドーム大阪

 「ずっと作りたかった応援グッズだったんです」と粟屋は話す。近年、球界で導入が進んでいたペンライト演出。粟屋は数年前から他球団の取り組みや、音楽ライブでの盛り上がりを注視していた。

 「京セラドーム大阪は、光が映える構造だと思っていました」。上段席と下段席の二重構造。グラウンド全体を取り囲むせり出た上段席は、下段席に影をつくる。暗転した時の深い暗闇は、ペンライトの光を一層際立たせると考えた。

 「新しい応援スタイルをグッズから提案したい」。昨年10月、オフシーズンに入ってすぐに粟屋は本格的に企画を進めていった。

 実現させるには、演出部門を担うイベントグループとの連携が不可欠だった。松元らとともに、カラーや仕組み、演出のタイミングなどについて議論を重ねた。1万5千枚の「ペンライト付きチケット」の販売も決まり、シーズン開幕が近づくにつれて準備は本格化していった。

写真:ペンライトをアピールするBsGravityとバファローブル&ベル

◆制御式ペンライト

 今回導入されたのは、演出側が色や点滅を自由に操作できる「制御式ペンライト」。来場者のペンライトは、制御システムにより組み込まれた電波信号を受け取り、一斉に光り出す仕組み。

 全体を2色で交互に光らせたり、4色のカラーを振り分けて点灯させたりと、細かな演出が可能だ。持つ人が増えるほどその光は広がり、球場全体がひとつの巨大な演出装置となっていく。

今シーズンのキャッチフレーズ「常熱」のロゴ
写真:ペンライトを生かした開幕セレモニー

◆「一体感」がテーマの開幕セレモニー

 2021年までBsGirlsのリーダー・CHALとして活躍した松元。「BsGirls時代を含めて今までの経験、全てを注ぎこみました」。開幕セレモニーのプロデュースは、球団職員として4年目を迎えた松元にとってこれまでで一番の大仕事だった。

 松元がテーマに掲げたのは「一体感」。今シーズンのキャッチフレーズ「常熱(じょうねつ)」のロゴマークのイメージを球場全体で描き出すことにした。

 「ペンライトのおかげで演出の幅は広がりました」。演出用の炎、照明に加え、「光」も扱える。音楽にぴったり合うような点滅スピード、ロゴマークのイエローとブルーの色味など、細かい調整を重ね、中身を磨き上げた。

写真:好評を博した開幕セレモニー

◆不安を越えた光の景色

 セレモニー本番直前。二人には一抹の不安があった。「全く新しい応援グッズを受け入れてもらえるだろうか」

 定刻通りにセレモニーは始まった。グラウンドに立つ二人の視線に飛び込んできたのは、スタンドを埋め尽くすほどの無数のきらめき。暗転の場内でははっきりと見ることはできないが、ペンライトを左右に大きく揺らすファンの姿、大はしゃぎする子どもたちの声、スタンドに広がる笑顔の輪を、手に取るように感じることができた。わずか数秒で二人の不安はかき消された。

 松元の熱い思いが込められたセレモニー。人の動きによる「生きた輝き」も目を引いた。松元の母校でもある滋慶学園グループの生徒140人が、ペンライトを生かしたダイナミックなダンスを披露した。

 BsGravityのメンバーが操ったのは光る「バーライト」。回したり重ねたりすることで、選手登場シーンを引き立たせた。随所にちりばめられた炎を立ち上がらせる演出は、スタンドから何度も歓声が上がった。

写真:サヨナラ打を放った若月選手。スタンドではペンライトが輝く
写真:開幕戦の日、初めて開催された「VICTORY PARTY」

◆光が祝福した劇的勝利

 この日の試合は、9回2-2の同点から若月健矢選手がサヨナラ打を放ち、劇的な勝利を収めた。ペンライト導入に合わせて始動することになった新イベントが初めて開催された。

 「“VICTORY PARTY”、スタート!」。アナウンスを合図に、ポップで軽快な音楽が響き出す。スタンドいっぱいに輝く星々は、ブルー、イエロー、ホワイト、ピンク。次々に色を変えていく。
 ラストでは、ファンの胸の高鳴りに呼応するように音楽が転調。「HEY!」の掛け声は一層大きくなる。これから登場するヒーローを盛大に迎えるため、ファンは一つになっていた。
 勝利の歓喜を鮮やかに彩る全く新しいグッズとして、ペンライトはその魅力を存分に発揮した。

 SNSには嬉しい感想がたくさん書き込まれていた。「初めてペンライトを使ったけど、めっちゃ綺麗だった」「ライブみたいでテンション上がった」「これからは毎試合持って行かないと」

 松元と粟屋は口をそろえた。「想像以上の反響」。最高のスタートダッシュが切れたことを喜んだ。

写真:ペンライトを握る選手たち

◆可能性は無限大

 大舞台を終えたが、彼女たちの挑戦は始まったばかり。

 「新しいデザインも作って、ファンの皆さんにとってもっと特別なグッズにしていきたいです。ペンライトケースだけでなく関連アイテムも増やしていけるはず」と話す粟屋。

 松元は「演出の可能性は無限大に広がりました。夏の陣やオリ姫デーなど、イベントごとに色使いを変えるなど、進化した演出をどんどんお見せしていきたいです」と意気込む。

 グッズ企画とイベント演出。球団職員が手を取り合って導入したペンライト。その輝きはこれからも、選手を、そしてファンを照らし続けていく。(西田光)

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