今シーズンも新たな名場面が数多く誕生したバファローズ。球団オフィシャルカメラマンを15年以上務めている松村真行さんが撮影した1万枚以上の写真の中から、今シーズンのキャッチフレーズ「常熱(じょうねつ)」が感じられるベストショットをお届けする。
◆九里投手の雄たけび
まずは、先発ローテの一角として移籍1年目のシーズンを完走した九里亜蓮投手の1枚。4月18日の北海道日本ハムファイターズ戦で、9回107球を投げ、雄たけびを上げている。
同点で迎えた9回表、1死1塁から併殺が完成した直後の一瞬。「マウンドを降りる時ではなく、アウトを確信した瞬間です」と、松村カメラマン。九里投手は拳を握り、この日一番の大きな雄たけびを上げた。
カメラマンとしては、ボールを追うのが基本の動き。6-4-3と内野手の連係を視野に入れてファインプレーを狙いつつ、アウトを確認した直後、すぐに九里投手へとレンズを戻した。その判断が、この表情を捉えた。
「多くの選手を撮りましたが、九里投手はまさに『常熱』の選手。チームで最も表情が豊かだと感じています」。松村カメラマンは話す。打ち取ったからといって、全ての投手が感情を全面に出すわけではない。九里投手の投球時の気迫、威勢の良い表情は試合を象徴する1枚になりやすいという。
この試合、チームは9回裏に若月健矢選手のタイムリーで勝利。入団当初から「200イニングが目標」とイニング数へのこだわりを示していた九里投手が、新天地で初めて完投勝利を収めた日となった。
◆岸田監督の初陣初勝利
3月28日の東北楽天ゴールデンイーグルスとの開幕戦、同点の9回に若月選手が左中間へサヨナラ打を放つと、球場は歓喜に包まれた。ダイヤモンドを一周し、ベンチへと引き揚げてくる若月選手を出迎えて抱擁したのが岸田護監督。松村カメラマンは、指揮官が前へ出てくる動きを想定し、構図を決めた。
松村カメラマンは「今シーズン、このシーン以外で岸田監督が選手と抱き合う姿は、ほとんど記憶にありません」と振り返る。勝利時のハイタッチはその後も多く見られたが、抱擁シーンは珍しく、特別な瞬間だという。岸田監督の表情には、歓喜だけではなく、張り詰めていた気持ちが一気にほどけたような安堵もにじんでいる。
チームとしては15年ぶりとなる本拠地開幕戦での白星。オープン戦の空気を払しょくする大きな一勝に、松村カメラマンも岸田監督を心から祝福した瞬間だった。
◆才木投手 気迫のピッチング
7月4日、ほっともっとフィールド神戸。千葉ロッテマリーンズ戦で8-5とリードする中、8回表の途中から才木海翔投手がマウンドに上がった。二、三塁にランナーを背負った緊迫した場面。得点を許せば、試合の流れが大きく傾きかねない局面だった。
内野ゴロの間に1点を奪われ、二死三塁。カウントは2ボール2ストライク。勝負の一球だった。繰り出されたのは、渾身のフォーク。直後、才木投手の身体がふっと宙に浮いた。投球動作を終えたと同時に飛び跳ねていた。
「投手がこんな動きをするのは、なかなか見たことがありません」と松村カメラマン。
この場面、打球の行方を追う選択肢もあったが、松村カメラマンは才木投手から目を離さなかった。マウンドに上がる前から感じていた「いつも以上の空気」。強い気迫がはっきりと伝わってきていたという。
結果は二ゴロでスリーアウト。投げ終えた瞬間に表れる、張りつめた闘志を捉えた1枚となった。
◆若月選手のクロスプレー
最後に紹介するのは、クロスプレーの1枚。4月16日、初回、埼玉西武ライオンズの攻撃。二死二塁から、レフト方向に打球が飛び、二塁ランナーが本塁を狙って走る。ここで、左翼手の西川龍馬選手が好返球。ボールは今シーズン、ゴールデン・グラブ賞を獲得した若月選手のもとへ渡った。
写真を見れば、アウトを取ったことが一目でわかる。若月選手の両足は宙に浮き、鋭い視線はマスク越しでも伝わってくる。
クロスプレーやジャストミートを狙うとき、松村カメラマンは、決してやみくもに連写しない。狙うのは「最も大切なシーン1枚」。その瞬間にタイミングを合わせてシャッターを切る。続く動きを連写で追う。
「一番良い瞬間が連写の合間にあれば、写真には残らない。感覚的なものに近いのですが、ここだ、と思う瞬間に合わせるだけですね」。熟練カメラマンはそう口にする。
◆残すべき瞬間
松村カメラマンは語る。「球場では、中継映像では拾いきれない情報が次々と入ってきます」。ファンのどよめき、グラウンド上の緊張感、ベンチの空気。松村カメラマンが撮影した写真は、五感を研ぎ澄ませて得たあらゆる情報から判断し、選び抜かれた「残すべき瞬間」だ。
ただ、と松村カメラマンは続ける。「野球には、写真だけでは伝えきれない面白さと奥深さがあります」。選手それぞれが宿す情熱は、プレーの躍動感となって現れる。その迫力は「球場だからこそ伝わるものだ」と松村カメラマンは言う。
「僕がカメラマンとして働く理由の一つには、皆さんに球場で生の野球を観てもらいたい思いもあるんです。少し矛盾するようですけどね」。にやりと笑った。
今シーズンのバファローズの「常熱」を、松村カメラマンのベストショットと共に思い出していただきたい。(西田光)