
オリックス・バファローズは9月6日、大阪の街を明るくした方々にスポットを当てる「なにわのHERO特別始球式」を京セラドーム大阪で実施しました。8度目となる今回は、大阪府交野市在住の災害救助犬アッシュ(雌、オーストラリアン・シェパード、7歳)と、訓練士の中野汀彩(なぎさ)さんが登場。世界大会を制したペアによる始球式に、球場は温かな笑顔で包まれました。


◆家庭犬からの転身
アッシュと中野さんの出会いは2017年。ドッグトレーナーを目指して大阪動物専門学校に通っていた中野さんが、ペットとして迎え入れたのがアッシュでした。高い身体能力と旺盛な好奇心を併せ持つことから災害救助犬としての才能が見出され、家庭犬から転身。中野さんと苦楽を共にしながら訓練を重ね、これまで数多くの大会で優秀な成績を収めてきました。
昨年1月の能登半島地震では、輪島市の災害現場に出動。悲惨な現場を前に、アッシュは臆することなく行方不明者の捜索にあたりました。中野さんは「人間では入れないような足場の悪いぬかるみや、がれきの隙間もアッシュなら進むことができました。災害救助犬にしかできない役割をあらためて実感しました」と振り返ります。
今年6月、トルコで開催された「FCI災害救助犬チームワールドチャンピオンシップ」では日本代表チームの一員として出場。20分以内に3人の要救助者を捜し出す「がれき捜索部門」で、アッシュは一番に要救助者を発見しました。日本代表チームは3人全員の要救助者を見つけ出し、見事優勝。日本代表チーム初の快挙を成し遂げました。
「私の災害救助犬訓練士としての道を拓いてくれた、かけがえのない存在です」。アッシュについて深い愛情を語ると、プライベートでは結婚したばかりだという中野さんは「もしかしたら家族以上に大切かも」。いたずらっぽく笑顔を見せます。


◆中野さんのもとへ一直線
始球式本番。「世界大会の時と同じぐらい緊張します」と口にした中野さんでしたが、アッシュと共に堂々とマウンドへと歩みを進めました。
「アッシュ、できる?」。中野さんの問いかけに「ワン、ワン!」。アッシュの元気いっぱいの意気込みが響き、スタンド全体に笑顔の輪が広がります。
「プレイボール!!」。スタジアムアナウンスが響くと、ボールを託されたアッシュはホームベースで待つ中野さんに向かって一直線。18.44メートルを軽やかに駆け抜け、紅林弘太郎選手のバットをかいくぐりました。見事中野さんのもとにボールを届けたアッシュ。「ナイスボール!!」。大成功を収めた始球式に、スタンド、ベンチから惜しみない拍手が送られました。


◆バファローベルに興味津々
始球式後の写真撮影では、アッシュは初対面のバファローベルに大はしゃぎ。興味津々でにおいをかぎ、飛びつきました。
グラウンド裏では「いつか大型犬を飼ってみたいんです」という山下舜平大投手になで回され、幸せそうな表情を浮かべていました。

◆勇姿をたたえる花道
中野さんは始球式を振り返り「最後にボールを落としてしまったのが少し悔しかったですが、それもアッシュらしかったかな。楽しかったです」。晴れやかに話します。続けて、「これからも災害救助犬をたくさん活躍させてあげて、災害が起こった時に一人でも多くの命を救えるようにしたいです」と、引き締まった表情で語りました。
アッシュは来月8歳を迎えます。災害救助犬としての活動は続けますが、大会への挑戦は一区切り。この日の特別始球式はこれまでの勇姿をたたえる花道となりました。
「素敵な晴れ舞台になりました。これまでよく頑張ってくれたので、少しゆっくりしてもらおうかな、と思っています」。そう語る中野さんの目線の先には、疲れ切って眠ってしまったアッシュの姿がありました。(西田光)
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